今回のWBCで、私は久しぶりに野球の試合を(テレビの中継ですが)心ゆくまで楽しみました。
今50代後半の私は、子どもの頃(1970年代~80年頃)には、よくプロ野球のナイター中継をみたものです。とくに野球ファンというわけではなかったのですが、野球をテレビでみることは、日常的なあたりまえの楽しみの一つでした。そしてスポーツ観戦といえば、まず野球だったのです。
でも社会人になって忙しくなると、野球をみなくなりました。とくに30代以降、会社勤めの仕事以外にも自分の好きなことでいろいろ活動するようになってからは、そうです。
大人になってからの私には「スポーツ観戦は、時間のムダ」という意識がつねにありました。
スポーツ観戦は自分が何かを生み出す活動ではないし、自分の関心のある分野(たとえば著作を出版したこともある世界史など)とも関係がありません。人がやっている野球の試合に3時間も4時間もつき合っているヒマはない――そんな思いがあったのです。
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しかし、50代後半になった今、私はかなりヒマになりました。フルタイムの仕事はしておらず(週2~3日大学で就活支援のカウンセラーの仕事をするくらい)、だいたい家にいて、おもに読んだり書いたりする日々。
時間に余裕があるせいか、今回のWBCの日本代表の試合は、決勝戦までほぼ全部みてしまいました。子どもの頃はプロ野球ファンだった妻(「推し」は巨人の篠塚)と、侍ジャパンを応援して盛り上がりました。
それは楽しい時間でした。スポーツ観戦という「ムダなこと」を思い切り楽しむのは、やはり人生のなかの大事な時間だと思いました。
これは昨年のサッカーワールドカップで日本代表の試合をみたときも感じたことですが、今回のWBCで、さらにその意を強くしたのです。
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「そんなのあたり前。スポーツ観戦とか楽しいに決まっているでしょう」と思う方もいるかもしれません。
でも、私にはあたり前ではなかったのです。私はこの30年くらい「自分の活動・アウトプットにつながる」「これが自分の領域だ」と思うこと以外に対し、禁欲的でした。
私は20代の後半から、それまでは大好きだったマンガをあまり読まなくなりました。「そんなヒマはない」と思ったのです。
小説も、もともとそれほど読まなかったのですが、さらに読まなくなりました。音楽についても「これは自分の領域ではない」と思って、関心を深めることはありませんでした。映画館に行くことも、学生時代よりずっと少なくなりました。
その一方で「自分の領域」と思う分野やその周辺のいろいろな本を読むとともに、アウトプットに取り組む時間を増やしていったつもりです。そういう目的意識的な取り組みは、それはそれで楽しく、私の人生を豊かにしてくれたとは思います。
でも今の私は「目的意識的ではないこと=ムダなことを楽しむのもまた、人生の貴重な時間だ」という思いが強くなっています。
テレビで野球やサッカーやその他のスポーツをみたり、ときには試合の会場に足を運んだり、好きなマンガを読んだり、ドラマや映画をみたり、部屋で音楽を聴き、ときにはコンサートに行ったり……これらは大切なことなんだと。
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最近の私は、若い頃(1980~90年代)に読んだマンガ(もう捨ててしまった)のいくつかをアマゾンの中古などでまた買って、じっくり読み返すことが楽しくなってきました(たとえばマンガ版の『風の谷のナウシカ』とか)。
また、たとえばこの前の日曜日に、封切られたばかりの映画『シン仮面ライダー』(庵野秀明監督)をみた体験も「有意義なムダな時間」でした。
あの映画は、いろいろ不満のある方は当然いると思いますが、私のような年代のオジさんには、子供の頃に「ライダー」をみたときのなつかしい感覚・ドキドキ感が深くよみがえってくるところがたしかにある。
あの映画にときどきみられる(きっとあえてそうしている)玩具(おもちゃ)のような安い感じと、なつかしいドキドキ感はつながっているように思います。でも主演の池松壮亮さん・浜辺美波さんをはじめとする俳優たちの芝居は全く「安い」感じでははなく、生き生きとして魅力的でした……まあ、そんな話は何の役にも立たないし、創造的でもないわけですが、それでいいのです。
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これから私は、「ムダな時間を心ゆくまで楽しむ」のを以前よりも強化したいと思います。この30年くらいの「禁欲」をやや見直すべきだと考えるようになっています。
死ぬまでに「有意義なムダな時間」の記憶を、もっと貯めておきたい。「目的意識的に何かに取り組んだ経験」とともに、それと同じように大事なものとして。
さらに年を重ねて人生の終わりがみえてきたとき、「ムダな時間」で触れた素敵なこと、ワクワクすることを記憶の引き出しにたくさん持っていて、それをときどき思い出して楽しむことができるとしたら、きっと幸せだと思います。
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